眼科コラム

オルソケラトロジーは子供の近視抑制になる?効果と適応の判断軸

目次

子供の近視は、ひとたび進んでしまうと自然に止まることはなく、成長期のあいだ進行が続きます。お子様の近視に「進ませない手立て」があると知って、オルソケラトロジーを調べはじめた保護者の方は多いと思います。日本近視学会も、エビデンスのある近視進行抑制法のひとつとしてオルソケラトロジーを位置付けており、装用開始から2年で近視進行をおよそ32〜63%抑える報告があります。

一方で、夜間に特殊なハードコンタクトレンズを装用するという治療の性質上、適応条件・管理体制・合併症のリスクを正しく理解したうえで始めるかどうかを判断する必要があります。

参考:日本近視学会近視の進行抑制治療

オルソケラトロジーが子供の近視抑制に使われる理由

子供の近視は、目の長さ(眼軸長)が伸びることで進行します。近視抑制治療の目的は、視力そのものを取り戻すことではなく、成長期のあいだに眼軸が伸びすぎないようブレーキをかけ、将来の強度近視を避けることにあります。オルソケラトロジーは、夜寝ているあいだに角膜の形をわずかに変えるレンズを装用し、日中は裸眼で過ごせるようにする治療です。

視力の改善と近視の進行抑制という、2つの効果が同時に得られる点が特徴です。

子供の近視はなぜ進むのか

子供の眼球は身長と同じように成長します。眼軸長(角膜から網膜までの距離)が伸びると、ピントの合う位置が網膜の手前にずれるため、遠くが見えにくくなります。これが子供の近視の正体です。

一度伸びた眼軸長は元には戻らないため、近視は治すものではなく、進行をいかに緩やかにするかという視点で対策する治療領域になります。

近年は近業時間(読書・タブレット・ゲームなど近くを見る時間)の増加と屋外活動時間の減少により、子供の近視が世界的に増えています。近視そのものは眼鏡で矯正できますが、強度近視まで進むと、将来的に網膜剥離・緑内障・近視性黄斑症など失明につながりうる眼疾患のリスクが高まります。「子供のうちから対策する意味」は、この将来リスクを下げる点にあります。

オルソケラトロジーの仕組み

オルソケラトロジーで使うのは、リバースジオメトリーと呼ばれる特殊なデザインの酸素を通しやすいハードコンタクトレンズです。中央が平らで周辺が立ち上がった形をしており、就寝中に装用することで角膜の中央部だけがわずかに平坦化します。朝起きてレンズを外すと、その平坦化した形がしばらく保たれるため、日中は裸眼でも遠くが見える状態になります。

近視抑制への効果は、角膜の形が変わることで網膜周辺部の像の結び方(周辺部のピント位置)が変化し、眼軸長を伸ばす方向の刺激を抑える仕組みが働くと考えられています。難しい話に聞こえますが、保護者の方に押さえていただきたいのは2点です。ひとつは、レンズを装用していないあいだに角膜は元の形に戻るため、やめれば視力も近視度数も元に戻ります。

もうひとつは、視力矯正と近視抑制が「日中に裸眼で過ごせる」という同じ仕組みから同時に得られる点です。

参考:オルソケラトロジーガイドライン(第2版)

オルソケラトロジーを始められる年齢と適応の条件

年齢と近視の度合い、そしてご家庭の管理体制という3つの軸で適応を考えるとイメージしやすくなります。

ガイドライン上の年齢の考え方

日本コンタクトレンズ学会の「オルソケラトロジーガイドライン(第2版)」では、適応年齢は原則20歳以上とし、20歳未満は慎重処方と定められています。これは「20歳未満には絶対にできない」という意味ではなく、未成年者では装用期間が長くなる可能性があることや、自己管理能力の差を考慮し、リスクを慎重に判断したうえで処方すべきという位置付けです。

実際の臨床では、レンズの装着・外し・洗浄を保護者がサポートできる環境が整っていれば、小学校低〜中学年から始められるご家庭も少なくありません。眼の成長とともに近視が進みやすい時期に始めるほど、近視抑制という観点では効果が期待しやすくなります。一方で、年齢が低いと自分でレンズを管理することが難しいため、保護者がどこまで関われるかが事実上の開始時期を決める要素になります。

参考:オルソケラトロジーガイドライン(第2版)|日本コンタクトレンズ学会

近視の度合いと角膜の状態

ガイドラインで定められている矯正の対象は、近視度数が-4.00Dまでの近視と-1.50D以下の乱視です。Dはディオプターの略で、近視の強さを示す単位です。-4.00Dを超える強度近視や、強い乱視がある場合は、オルソケラトロジーだけでは矯正しきれないため適応外になります。

そのほか、角膜内皮細胞密度が2,000個/mm²以上あること、ドライアイが重度でないこと、角膜やまぶたの病気がないことが処方前の条件として確認されます。これらは見た目では判断できないため、必ず眼科での精密検査を受けてから治療開始の可否を判断します。武田眼科では角膜形状解析・OCT検査などを通じて、お子様の目の状態を多角的に確認したうえでご提案しています。

【重要】ご家庭の管理体制は見落とされやすい条件

医学的な適応条件と同じくらい大切なのが、家庭での管理体制です。オルソケラトロジーは毎晩の装用と毎日のレンズケアが必要で、レンズの汚れや傷をそのままにすると、角膜感染症など重篤な合併症のリスクが上がる治療です。

具体的には、毎晩の装着前後の手洗い、専用洗浄液でのこすり洗い、レンズケースの定期的な交換、3ヶ月ごとの定期検査の通院といった習慣を、お子様と保護者が一緒に続けられるかが鍵になります。低学年のお子様ではレンズの装脱着を保護者が代わりに行うことも多く、塾や習いごとが多い時期には保護者の協力時間がとれるかも事前に確認しておくと安心です。「お子様がやりたいかどうか」と同じくらい、「ご家庭で続けられるかどうか」を判断材料に入れていただきたい治療です。

近視抑制効果はどのくらいか

「実際に近視の進行はどのくらい止まりますか」という疑問は、保護者の方が最も気にされる点です。日本近視学会の解説に具体的な数値が示されているため、効果の幅も含めて把握しておくと判断しやすくなります。

装用2年でどのくらい進行を抑えるか

日本近視学会の解説では、オルソケラトロジー装用開始から2年間で、近視の進行をおよそ32〜63%抑えると紹介されています。たとえば何も対策をしなかった場合に2年で-1.0D進む見込みのお子様であれば、計算上はおよそ-0.4〜-0.7D程度の進行に抑えられる可能性がある、というイメージです。

数値に幅があるのは、研究によって対象年齢・近視の強さ・観察期間が異なるためです。低年齢で開始した方が抑制効果が大きく出やすい傾向もあり、近視が進みやすい小学生のあいだに始める意義はここにあります。一方で効果には個人差があるため、全員が同じだけ進行を抑えられるわけではない点は最初に共有しておきたい部分です。

参考:日本近視学会近視の進行抑制治療

ほかの近視抑制治療と比べてどうか

近視進行抑制の選択肢は、現在では複数あります。日本近視学会が紹介している主な方法と効果の目安は次のとおりです。

治療法 効果の目安 特徴
オルソケラトロジー 2年でおよそ32~63%抑制 夜間装用、日中は裸眼で過ごせる
低濃度アトロピン点眼 1年でおよそ30~70%抑制 1日1回の点眼
近視管理用眼鏡 2年でおよそ55~60%抑制 普段の眼鏡として使える
多焦点ソフトコンタクトレンズ 3年で59%抑制 日中装用、自己管理が必要

それぞれ装用方法・年齢適応・管理の難易度が異なります。「どれが最も優れているか」ではなく、お子様の年齢・性格・生活習慣に合うものを選ぶ視点が大切です。たとえばコンタクトレンズの管理が難しい低年齢のお子様には点眼治療や眼鏡が選択肢になりますし、スポーツをしていて眼鏡や日中のコンタクトを煩わしく感じるお子様ではオルソケラトロジーの利点が大きくなります。

参考:日本近視学会近視の進行抑制治療

眼鏡・通常コンタクトとの違いと選び方

「眼鏡で見えるなら、わざわざ高い治療をしなくてもよいのでは」と感じられる保護者の方もいらっしゃいます。それぞれの選択肢の役割の違いを整理しておくと、判断のすれ違いが減ります。

視力矯正と近視抑制は別の話

通常の眼鏡や日中装用のコンタクトレンズは「いまの近視を矯正して見えるようにする」ための道具で、近視の進行そのものを止める働きは限定的です。これに対しオルソケラトロジー・低濃度アトロピン・近視管理用眼鏡などは視力を補うことに加えて、近視そのものの進行を緩める目的を持った治療です。

眼鏡を作っているだけでは、近視は止まらず進んでいくのが原則という前提を共有しておくと、近視抑制治療を検討する意味が見えてきます。一方で、すべてのお子様に近視抑制治療が必須というわけではありません。近視の進行スピードや、両親の近視の有無など将来の強度近視リスクを総合的に見ながら、どこまで踏み込むかを決めていきます。

オルソケラトロジーが向くお子様・向きにくいお子様

向きやすいのは、近視が-4.00D以内で、レンズの装着と毎日のケアを保護者と一緒に続けられるご家庭のお子様です。スポーツをしている、日中眼鏡やコンタクトを使いたくない、というニーズがある場合には特にメリットを感じやすい治療です。

向きにくいのは、近視が強すぎて適応範囲を超える場合、ドライアイが強い場合、角膜の状態に問題がある場合、そして毎日の装用とケアを継続することが現実的に難しいご家庭の場合です。

安全性と知っておきたいリスク

オルソケラトロジーは適切に管理されれば長期的にも続けられる治療ですが、レンズを夜間装用するという性質上、知っておくべき合併症があります。「失敗しないために何に気をつけるか」を保護者が把握しておくことが、安全性を担保する最大のポイントです。

最も注意すべきは角膜感染症

オルソケラトロジーで最も警戒すべき合併症は角膜感染症です。緑膿菌やアカントアメーバが原因の角膜炎は、適切なケアを怠ると重症化し、失明に至るおそれがあります。とくにアカントアメーバ角膜炎は治療が難しく、視力に大きな後遺症を残すことがあります。

角膜感染症の多くは、レンズの汚れ・キズ、レンズケースの汚染、水道水での直接洗浄などによる微生物の混入が引き金になります。基本的なケアとして、界面活性剤によるこすり洗い、ヨードアレルギーに注意したうえでのポビドンヨード剤による消毒、レンズケースの水洗い後の乾燥と定期的な交換が必要です。これらは「ケアを丁寧にすれば防げる」種類のリスクであり、家庭でのレンズ管理がそのまま安全性を決めると言って過言ではありません。

その他に起こりうる症状

角膜感染症のほかには、以下のような合併症や問題点が挙げられています。

  • 疼痛
  • 角膜上皮障害
  • アレルギー性結膜疾患
  • 近視や乱視の低矯正や過矯正
  • ハロー(光のにじみ)やグレア(まぶしさ)
  • コントラスト感度の低下
  • 不正乱視
  • 角膜の鉄沈着(アイアンリング)
  • 上皮下混濁
  • 見かけ上の眼圧低下

多くは早期に発見できれば対応可能なものですが、お子様は違和感を言葉でうまく伝えにくいことがあります。「いつもより目を擦る」「朝起きたときに目が痛そうにしている」「見えにくそうにしている」といった日常の変化に保護者が気づき、3ヶ月ごとの定期検査を欠かさず受けることが、合併症を重症化させない最大の予防になります。

定期検査をなぜ続ける必要があるか

オルソケラトロジーでは、処方翌日と、その後3ヶ月ごとの定期検査が必須です。レンズと角膜の小さなトラブルは、見た目に症状が出る前に検査機器でしか把握できないものが多いという事実が背景にあります。

定期検査では、視力・眼圧・角膜のフルオレセイン染色検査・角膜形状解析・角膜内皮細胞数の経時変化などを確認します。「目立った異常がないから今回はパス」という判断はせず、保護者の方には、定期検査の予定をカレンダーに固定する形でお願いしています。

オルソケラトロジーの費用の目安と治療の流れ

オルソケラトロジーは公的医療保険が適用されない自由診療のため、クリニックによって料金体系が大きく異なる治療領域です。「いくらくらいかかるか」と一緒に「何が料金を決めるか」を理解しておくと、見積もりの読み取り方が変わります。

何が費用を決めているか

費用を決めているのは、主に次の3つの要素です。

  • レンズの種類(メーカー・乱視矯正の有無など)
  • クリニックの料金体系(買い切り型/定額制/適応検査の有無)
  • 定期検査の頻度・内容

買い切り型は初期費用が高めでもその後の追加費用が少なく、定額制は初期負担が抑えられる代わりに月々または年々の支払いが続きます。

お子様の場合は近視の進行に合わせて度数の合うレンズへの交換が必要になるため、レンズ交換時の費用が含まれているか別請求かを最初に確認しておくと、長期での総額が見通しやすくなります。

一般的な費用の目安

武田眼科でのオルソケラトロジーの料金は、適応検査11,000円(税込)、初期費用が両眼66,000円・片眼33,000円(税込)、3ヶ月以降は両眼で月11,000円(税込・定期検査と診察料を含む)です。
初年度の総額目安は両眼で17万円台
になります。2年目以降は月々の費用とケア用品代が継続的にかかり、レンズはおおむね2〜3年ごとの交換になります。

クリニックによって料金体系(買い切り型・定額制)が異なるため、他院との比較時はトータルでの試算が役立ちます。

なお、オルソケラトロジー治療費は医療費控除の対象になります。
1年間の医療費の合計が一定額を超えた場合、確定申告により所得税・住民税の一部が軽減されます。一般の眼鏡・コンタクトレンズの購入費は対象外なので、混同しないようご注意ください。

参考:国税庁オルソケラトロジー(角膜矯正療法)による近視治療に係る費用の医療費控除

治療開始までの流れ

開始までは、適応検査と試験装用の2段階で進めます。

  • 初診と適応検査:視力・屈折・角膜形状・角膜内皮細胞数・涙液の状態などを精密に検査し、適応があるかを確認します
  • 試験装用:トライアルレンズを装用し、フィッティング・視力の変化・角膜の状態を確認します
  • 翌日検査:実際に1晩装用したあとの角膜の状態と裸眼視力を確認し、問題がなければ正式な処方に進みます
  • 定期検査:その後は3ヶ月ごとの定期検査を継続します

初日に「合うかどうか」が決まる治療ではない点が、通常のコンタクトレンズとの大きな違いです。
試験装用と翌日検査の結果を見たうえで処方の可否を判断するため、初診から本格的な装用開始まで複数回の通院が必要になります。

子供のオルソケラトロジーの装用に関するよくある質問

何歳までやめずに続けたほうがよいですか?

近視の進行は身長の伸びと連動しているため、成長が落ち着き近視の進行が止まる年齢(一般に18歳前後)までを一区切りに継続するご家庭が多くなっています。
途中でやめても、装用していた期間に進行を抑えられた分はそのまま残ります。やめるタイミングは進行の落ち着き具合を見ながら主治医と相談して決めます。

レンズを装用しないと視力は元に戻りますか?

はい、戻ります。オルソケラトロジーは角膜の形を一時的に変えているだけで、装用を中止すれば1〜2週間ほどで角膜は元の形に戻り、近視も装用前の状態に戻ります。
これはレンズが効いている裏返しでもあり、永久的な変化を起こす治療ではない点を知っておくと安心です。

スポーツをしている子に向きますか?

日中は裸眼で過ごせるため、水泳・ボール競技・コンタクトレンズの落下が気になる競技をしているお子様とは相性がよい治療です。眼鏡の煩わしさやコンタクトレンズが外れる不安から解放されるため、競技に集中しやすくなったというお声を聞くことが多い領域です。

強い乱視や強度近視でも使えますか?

日本コンタクトレンズ学会のガイドラインは近視-4.00Dまで、乱視-1.50D以下を原則の適応範囲と定めており、これを超える場合は適応外となります。強度近視のお子様では、低濃度アトロピン点眼や近視管理用眼鏡など、別の近視抑制治療を検討します。

まとめ

オルソケラトロジーは、夜寝ているあいだに角膜の形を一時的に変え、日中の裸眼視力と近視進行抑制の両方を狙う治療です。装用2年でおよそ32〜63%の近視進行抑制が日本近視学会の解説でも示されており、エビデンスのある近視抑制法のひとつとして位置付けられています。

ただし、適応年齢・近視の度合い・角膜の状態という医学的な条件に加えて、毎日の装着とケアをご家庭で継続できるかという運用面の条件も同じくらい重要です。

武田眼科では、お子様も対象にオルソケラトロジーで近視の進行を抑える治療に対応しています。「うちの子の近視が心配」「装用や管理を毎日続けられるか」とお迷いの方は、まずはお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

武田眼科
院長 武田俊彦

地域の皆さんの少しでもお役に立てるよう努力します。
患者さまの目線で病気を見つめ、わかりやすい言葉でご説明することを大切にしています。

■ 経歴

  • 平成14年4月:関西医科大学眼科 入局
  • 平成15年5月:日本赤十字社和歌山医療センター眼科 勤務
  • 平成17年10月:関西医科大学滝井病院眼科 勤務
  • 平成18年4月:関西医科大学滝井病院救命救急センター 勤務
  • 平成19年8月:医療法人慈眼会 武田眼科 院長就任
  • 平成19年9月〜12月:天理よろづ相談所病院 非常勤医師

■ 資格・認定

  • 眼科専門医

【オルソケラトロジー治療に関する重要事項】

オルソケラトロジーは公的医療保険が適用されない自由診療です。

  • 治療内容:就寝中に特殊な形状のハードコンタクトレンズを装用し、角膜の形状を一時的に変化させることで、日中の裸眼視力の改善と近視進行抑制を目指す治療
  • 治療期間・回数:効果は装用開始から1〜2週間程度で現れ、装用を中止すると元の屈折状態に戻ります。近視抑制を目的とする場合は成長が落ち着く年齢までの継続装用が一般的です(個人差あり)
  • 費用の目安:武田眼科では適応検査11,000円(税込)、初期費用が両眼66,000円・片眼33,000円(税込)、3ヶ月以降は両眼で月11,000円(税込・定期検査と診察料を含む)。
    詳しくは武田眼科へお問い合わせください
  • リスク・副作用:角膜感染症(緑膿菌・アカントアメーバ等)、角膜上皮障害、アレルギー性結膜疾患、近視・乱視の低矯正や過矯正、ハロー・グレア、コントラスト感度の低下、不正乱視など。
    重篤な角膜感染症は失明につながる可能性があります