眼科コラム

オルソケラトロジーとレーシックの違い、
可逆性・年齢・費用で選ぶ判断軸

目次

オルソケラトロジーとレーシックは「裸眼で見えるようになる」というゴールは同じですが、その過程は正反対です。オルソケラトロジーは夜眠っている間に角膜をやわらかく押して形を整え、日中の視力を稼ぎます。一方のレーシックはレーザーで角膜の一部を削り、形そのものを永久に変えます。

可逆か不可逆か、続ける治療か一度きりの手術か。この違いが、どちらが自分に合うかの判断軸になります。

オルソケラトロジーとレーシックの根本的な違いは「可逆か不可逆か」

両者の最大の違いは、角膜をどう扱うかにあります。ここを押さえるだけで、費用・年齢・リスクの違いが「なぜそうなるのか」一気に見通せるようになります。

【オルソケラトロジー】一時的に視力を矯正する治療

オルソケラトロジーは、就寝中に専用のハードコンタクトレンズを装用し、角膜の中央部をわずかに平らに押して屈折度を変える治療です。朝レンズを外すと、押された角膜の形がしばらく保たれるため、日中は裸眼で見えます。

レンズの装用をやめると角膜は数日〜数週間で元の形に戻り、視力も元の近視に戻ります。言い換えると「裸眼視力が出ているのは、毎晩レンズで形を整え続けているから」であり、レーシックのように一度の処置で完結する治療ではありません。

毎晩の装用が前提です。メニコンの公式情報によると、安定した視力を得るために1日6〜8時間程度のレンズ装用が必要です。装用をやめれば元に戻るという仕組みが、オルソケラトロジーの「可逆性」の正体です。

【レーシック】角膜を削って形を変える手術

レーシックは、角膜の表面に薄いフタ(フラップ)を作り、その下の組織をエキシマレーザーで削って屈折度を変える手術です。削った組織は再生しないため、一度受けると角膜の形は元に戻せません。これが「不可逆」と言われる理由です。

不可逆である代わりに、毎晩の装用や定期的なレンズ交換は不要です。手術で得た視力は、術後の経過が落ち着けば日常生活の中で意識せず使える状態になります。

ただし「一生視力が安定する」という意味ではありません。加齢に伴う老眼や白内障などの変化はレーシックを受けた目にも起こります。レーシック後の角膜は通常より薄くなっているため、将来の白内障手術や別の眼科治療を計画する際、術前の角膜データが必要になる場面があります。手術記録は長く保管しておくことが大切です。

適応年齢の違い

近視矯正の選択肢として両者を並べると、年齢でふるいにかかります。特にお子さまの近視に悩む保護者の方にとっては、レーシックは最初から候補に入りません。

【レーシック】18歳以上が原則

日本眼科学会の屈折矯正手術ガイドライン(第8版)では、レーシック(エキシマレーザー手術)の適応年齢を「18歳以上」と定めています。
これは、患者本人の判断と同意を求める趣旨と、16歳前後で発症する遅発性近視の進行を考慮に入れた基準です。

未成年者に手術を行わない大きな理由は、近視がまだ進行している可能性があるからです。
仮に18歳前にレーシックで矯正しても、その後さらに近視が進めば、再びメガネやコンタクトが必要になります。
実務的には、近視が安定する20代前半まで待つほうが望ましいとされる場面が多くあります。

参考:日本眼科学会の屈折矯正手術ガイドライン(第8版)

【オルソケラトロジー】20歳以上が原則・未成年は慎重処方

オルソケラトロジーも、ガイドライン上の原則年齢は20歳以上です。
ただしこちらは「未成年は慎重処方」という位置づけで、適応外(禁忌)ではありません。

実際の臨床現場では、保護者の管理と協力のもとで、学童期のお子さまへの処方が広く行われています。
レンズの清潔管理を保護者が責任を持って担えること、処方前のインフォームド・アセント(本人の理解と納得)が得られることが前提です。手術ではなく装用をやめれば元に戻る治療なので、合わない場合は中止するという選択肢が常にある点が、未成年への処方を可能にしている背景です。

参考:オルソケラトロジーガイドライン(第2版)|日本コンタクトレンズ学会

お子さまの近視が進行している場合はオルソケラトロジーが選択肢になる

「子どもの近視を進行させたくない」という相談は、近年特に増えています。レーシックが18歳以上のためお子さまの選択肢に入らない一方、オルソケラトロジーには近視進行抑制という独自の役割があります。

オルソケラトロジーは近視の進行そのものを抑える効果が報告されている

オルソケラトロジーの大きな特徴は、日中の見え方を改善するだけでなく、近視そのものの進行(眼軸長の伸び)を抑える効果がある点です。

日本近視学会は近視進行抑制治療の選択肢の一つとしてオルソケラトロジーを位置づけています。同学会の解説では、オルソケラトロジーの装用開始から2年間で、近視進行をおおよそ32〜63%抑制すると示されています。学童期の近視進行抑制効果は、複数のメタ解析で確認されている領域です。

参考:近視の進行抑制治療|日本近視学会

始める判断は早期がよいが「お子さまが続けられるか」が前提

近視が進行している段階でオルソケラトロジーを始めると、進行のペースを抑える効果が期待できます。

ただし、効果が期待できるからといって全員に向く治療ではありません。毎晩の装用ケアを保護者と本人が継続できるか、定期検診に通えるか、感染症の兆候があったときにすぐ眼科に来られるかが、お子さまへの適応判断の前提です。検査結果だけでは判断できない部分なので、カウンセリング時に生活環境も含めて医師と相談してください。

費用構造の違い

「総額でどちらが高いか」という問いに対する答えは、続ける年数で変わります。一回で終わるレーシックと、続ける限りコストが発生するオルソケラトロジーの違いを整理します。

【オルソケラトロジー】初年度と2年目以降でコストが分かれる

オルソケラトロジーは自由診療です。クリニックによって料金体系は異なりますが、一般的な相場は次のとおりです。

区分 費用の目安
初年度(両眼) 15万~20万円程度
2年目以降の年間費用 3万~6万円程度
レンズ交換
(2~3年に1回)
6万~10万円程度

※初年度費用にはレンズ代・適応検査・治療開始後の通院費が含まれることが多いですが、内訳はクリニックによって異なります。

ランニングコストの中身は、定期検診費(1回3,000〜5,000円程度を3ヶ月ごと)、レンズケア用品代(月2,000〜3,000円程度)、そしてレンズの定期的な交換費用です。「最初に大きな金額を払って終わり」ではなく「続ける限り継続的にお金がかかる」のがオルソケラトロジーの費用構造です。

オルソケラトロジー治療は確定申告の医療費控除の対象です。年間医療費が10万円(または総所得金額等の5%)を超える場合、超過分について控除を受けられます。

【レーシック】一括で20万〜40万円、その後は基本的にゼロ

レーシック手術は自由診療で、両眼で20万〜40万円程度が一般的な相場です。使用するレーザー機器・フラップ作成方法・保証期間の違いによって価格に幅が出ます。

手術後の費用は、術後の定期検診(1ヶ月後・3ヶ月後・半年後など)と万一の再手術に関するものが中心です。多くのクリニックは数年単位の保証期間を設けており、保証期間内であれば再手術や検診は無料、または割引で受けられます。

単純な総額比較では「オルソケラトロジーは年数が長くなるほど割高、レーシックは初期投資型」になります。ただし「年数が長くなるほどオルソが高い」=「損」ではありません。途中でやめても角膜は元に戻り、ライフステージの変化(出産・転居・他の眼科治療の必要が出たとき等)に応じて柔軟に方向転換できる点は、レーシックにはない特徴です。

効果の出方とやめたときの戻り方の違い

「いつから見えるようになるか」「もしやめたら、または効果が落ちたらどうなるか」も、両者でまったく異なります。

【オルソケラトロジー】数日〜1週間で日中の裸眼視力が安定する

オルソケラトロジーの効果は装用初日から少し感じられますが、安定した視力になるまでは個人差があります。一般的に開始から1週間ほどで日中に裸眼で生活できる視力になります。強度の近視ほど安定までに時間がかかる傾向があります。

毎晩の装用を継続すれば日中の裸眼視力は維持されますが、装用をやめると角膜の形は数日〜数週間で元に戻り、近視も元の状態に戻ります。

【レーシック】術後数日で視力が出て長期的に維持される

レーシックは手術翌日から日常生活に戻れるケースが多く、術後数日で視力が安定します。仕事復帰のタイミングは職種によって異なるため、執刀医の指示を確認してください。

長期的にも安全性・有効性が高い手術とされ、海外の追跡研究でも術後10年時点で多くの方の視力が安定していたと報告されています。ただし、ごく一部の方では「近視の戻り(リグレッション)」と呼ばれる現象が起こり、再手術が必要になる場合があります。また、加齢による老眼や白内障は、レーシック後の目にも通常どおり進行します。

レーシックは「近視そのものを治す手術」であり、「老化を止める手術」ではない点は押さえておきたいところです。

参考:JSCRSの調査発表|JSCRS(日本白内障屈折矯正手術学会)レーシック情報

リスク・合併症の違い

裸眼で見えるという結果が同じでも、その途中で起こりうる問題は別物です。「治療を続けることで起こりうるリスク」と「手術を受けることで起こりうるリスク」を分けて考えます。

【オルソケラトロジー】角膜感染症の予防が最重要

オルソケラトロジーで最も注意すべきは、ハードコンタクトレンズと同様の角膜感染症(角膜潰瘍など)です。就寝中にレンズを装着するため、レンズや手指、レンズケースの清潔管理が不十分だと細菌や微生物が角膜に侵入するリスクがあります。

日本眼科学会のオルソケラトロジーガイドライン(第2版)では、感染症対策として界面活性剤によるレンズのこすり洗いとポビドンヨード剤による消毒、レンズケースの定期的な洗浄・乾燥・交換が強調されています。決められたケアを守れない方には適応が難しい治療と言えます。

そのほか、装用初期に感じやすい違和感としては、軽度のドライアイ、レンズのズレによる見え方のムラ、夜間の光のにじみ(ハロー・グレア)などがあります。多くは慣れと装用調整で軽減しますが、症状が続く場合は治療の継続自体を見直すこともあります。

【レーシック】術中・術後の合併症と長期的な角膜の変化に注意

レーシック特有のリスクは、角膜にフラップを作って削るという行為そのものに伴う合併症です。代表的なものに、ドライアイ(多くは数ヶ月で軽快)、夜間の光のにじみ、フラップのトラブル、感染症などがあります。

長期的には、削った後の角膜が薄くなることで、ごくまれに「角膜拡張症(ケラトエクタジア)」と呼ばれる角膜の形状異常が起こる場合があります。これを避けるため、術前の角膜厚・形状検査が極めて重要になります。

なお、レーシックには明確な禁忌があります。日本眼科学会のガイドラインでは、円錐角膜、活動性の眼内炎症、重症の糖尿病やアトピー性疾患、妊娠中・授乳中の方などはレーシックの適応外と定められています。検査の段階でこれらに該当することがわかれば、レーシック以外の選択肢を検討することになります。

参考:屈折矯正手術のガイドライン(第8版)|日本眼科学会

オルソケラトロジー・レーシックに関するよくある質問

ICLとはどう違いますか?

ICL(眼内コンタクトレンズ)は、目の中(虹彩の後ろ)に専用レンズを挿入して近視・乱視を矯正する手術です。レーシックのように角膜を削らないため強度近視にも対応しやすく、レンズを取り出せば元に戻せる点で「可逆的な手術」と位置づけられます。費用は両眼で50万〜70万円程度が一般的で、レーシックより高めです。

レーシックを受けた後にオルソケラトロジーはできますか?

原則として推奨されません。レーシックで削られた角膜にオルソケラトロジー用のレンズを乗せても、角膜の形が手術で大きく変わっているため設計が合いにくく、効果が安定しないためです。レーシック後の見え方の変化に対しては、メガネ・コンタクトレンズや、状況によっては再手術で対応するのが一般的です。

自分はオルソケラトロジーとレーシックのどちらが向いていますか?

判断軸はおおよそ次の3つです。第一に年齢で、18歳未満ならオルソケラトロジー一択、18歳以上で近視が安定していればどちらも選択肢になります。第二に可逆性の希望で、「将来やめたい・元に戻したい」可能性があるならオルソケラトロジー、「毎日のケアから解放されたい」ならレーシックが向きます。

第三に近視の度数と角膜の状態で、強度近視や角膜が薄い方は両方とも適応外になる場合があるため、最終的には検査結果で判断します。

まとめ

オルソケラトロジーとレーシックは「裸眼で見える」という結果は同じでも、可逆か不可逆か・毎晩の装用か一度の手術か・対象年齢の幅・費用構造・近視進行抑制の有無といった点で性格がまったく違う治療法です。どちらが優れているという話ではなく、年齢・ライフスタイル・将来の選択肢の自由度のどれを優先するかで答えが変わります。

武田眼科では、オルソケラトロジー治療と適応検査を行っています。レーシックを検討中の方も含め、まずはご自身の角膜の状態と近視の度数を客観的なデータで確認し、どの選択肢が適応に入るのかを把握することが、納得して治療を選ぶ第一歩になります。お子さまの近視進行や、ご自身の視力矯正の方法選びでお迷いの方は、お気軽にご相談ください。

この記事の監修者

武田眼科
院長 武田俊彦

地域の皆さんの少しでもお役に立てるよう努力します。
患者さまの目線で病気を見つめ、わかりやすい言葉でご説明することを大切にしています。

■ 経歴

  • 平成14年4月:関西医科大学眼科 入局
  • 平成15年5月:日本赤十字社和歌山医療センター眼科 勤務
  • 平成17年10月:関西医科大学滝井病院眼科 勤務
  • 平成18年4月:関西医科大学滝井病院救命救急センター 勤務
  • 平成19年8月:医療法人慈眼会 武田眼科 院長就任
  • 平成19年9月〜12月:天理よろづ相談所病院 非常勤医師

■ 資格・認定

  • 眼科専門医

【オルソケラトロジー治療に関する重要事項】

オルソケラトロジーは公的医療保険が適用されない自由診療です。

  • 治療内容:就寝中に専用のハードコンタクトレンズを装用し、角膜の形状を一時的に変化させて日中の裸眼視力を改善する治療
  • 治療期間・回数:装用初日から効果が出始め、一般的に1週間程度で安定。装用を継続している間のみ効果が持続し、中止すると角膜は元の形に戻る(個人差あり)
  • 費用の目安:初年度(両眼)15万〜20万円程度、2年目以降の年間費用3万〜6万円程度。クリニックにより異なるため、詳しくはクリニックへお問い合わせください
  • リスク・副作用:角膜感染症(角膜潰瘍など)、ドライアイ、見え方のムラ、夜間の光のにじみ(ハロー・グレア)、装用感の違和感など。レンズケアを徹底できない場合は適応外