白内障で失明することはある?放置と手術のリスクを眼科医が解説

目次
「白内障」と診断された、あるいは家族から手術を勧められたとき、多くの患者様が最初に気にされるのが「このまま見えなくなってしまうのか」という不安ではないでしょうか。
結論からお伝えすると、現在の日本で白内障そのものが原因で完全に視力を失うケースは、極めて限られた状況に限られます。ただし、白内障そのもので失明することと、白内障を長く放置した結果として別の病気を起こして失明することは、分けて考える必要があります。
この記事では「白内障で失明することはあるのか」「放置するとどうなるのか」「手術で失明することはあるのか」という3つの不安を整理し、いつ眼科を受診すればよいかの判断基準までお伝えします。
白内障で失明することはある?
ここではまず「白内障そのもの」と「失明」の関係を整理します。
視力低下と失明の段階の違い、日本で白内障による失明が少ない理由という2つの角度から、現状をご説明します。
「失明」と「視力低下」は別の段階
医学的に「失明」とは、視力が極端に低下して光を感じる程度しか残らない、または全く光を感じない状態を指します。
一方、白内障で起こるのは「かすむ」「まぶしい」「視力が落ちる」といった視力低下です。
視力低下と失明は地続きですが、白内障の場合は「手術で水晶体を取り換えれば視力が戻せる段階」が長く続くため、手遅れになる前に介入できる病気です。
日本眼科医会によれば、白内障手術は日本国内で年間約120万件行われています。
これは「白内障になった方の多くが、視力低下が日常生活に支障を来した時点で手術を選び、視力を取り戻している」という現実を示しています。
日本で白内障による失明が少ない理由
日本眼科医会の報告では、日本における失明原因の内訳は、緑内障27.6%、屈折異常12.9%、糖尿病網膜症10.5%、加齢黄斑変性5.5%に対し、白内障は0.6%にとどまっています。同報告でも「公平で利用しやすい医療制度の結果として、白内障など治療しやすい疾患による視力障害は少なく、加齢に伴う治療の難しい疾患による視力障害が多い」と分析されています。背景には3つの要素があります。
一つは眼科クリニックへのアクセスが整っている点です。視力低下や見え方の違和感を覚えた段階で眼科を受診できるため、進行する前に診断がつくケースが多くなります。
二つめは、白内障手術が日帰りまたは短期入院で受けられる標準的な手術として確立している点です。手術自体が珍しい治療ではなく、適応と判断されれば速やかに予定が組まれます。
三つめは、健康保険が適用される単焦点レンズの手術であれば、3割負担で片目45,000〜60,000円程度、高額療養制度を使えばさらに抑えられるため、必要なときに治療を選びやすい点です。
つまり「白内障になっても、必要なタイミングで手術を受けられる仕組みがある」ことが、失明を防いでいるのが日本の現状です。
白内障の放置で失明するケース
「白内障そのものでは失明しにくい」とお伝えしましたが、放置を続けた場合は別の合併症を介して視力を失うリスクが出てきます。
放置で起こりうる急性緑内障発作
白内障が進行すると、水晶体は単に濁るだけでなく、膨らんで厚みを増します。
膨らんだ水晶体が目の中で房水(眼内を循環する透明な液体)の通り道を圧迫すると、房水が排出されにくくなり、眼圧が急激に上昇します。これが急性緑内障発作です。眼鏡やコンタクトの度を変えても改善しないのが白内障のかすみの特徴です。
急性緑内障発作では、突然の眼の痛み・頭痛・吐き気・霧がかかったような見え方・電灯の周りに虹のような輪が見える、といった症状が出ます。眼圧が高い状態が続くと視神経が短時間でダメージを受け、適切な治療が遅れると視力が戻らなくなる可能性があります。急性緑内障発作は救急対応が必要な状態で、「白内障の放置」が引き金になりうるという点で、白内障を軽視できない最大の理由の一つです。
なお、日本眼科学会の調査では緑内障は日本人の後天失明原因の第1位です。
過熟白内障で起こる水晶体融解性ぶどう膜炎
白内障をさらに長く放置し、水晶体が「過熟白内障」と呼ばれる状態にまで進むと、水晶体の中身が液状化し、外側の被膜から漏れ出すことがあります。漏れたタンパク質が目の中で強い炎症を起こすのが、水晶体融解性ぶどう膜炎です。
この状態になると目の痛みと炎症で日常生活が成り立たなくなり、緊急手術が必要になります。
ぶどう膜炎を起こしてからの手術は、白内障が進む前の通常の手術よりも合併症のリスクが高くなります。
放置すると手術そのものが難しくなる
放置の問題は「合併症が起こるかどうか」だけではありません。白内障が進むほど水晶体の核が硬くなり、超音波で砕いて吸引する標準的な手術手技では対応しづらくなります。難症例化した白内障手術は、合併症のリスクが上がり、手術時間も長くなります。
「もう少し様子を見てから手術にしよう」と先延ばしすることのデメリットは、視力低下による生活の不自由さだけでなく、手術自体のリスクが少しずつ上がっていくことにもあります。
視力が日常生活に支障を来し始めた段階で一度眼科に相談していただくのは、手術の安全性という観点からも合理的です。
白内障の手術で失明することはある?
手術である以上ゼロリスクとは言えませんが、日本で行われている白内障手術は、合併症の発生頻度が低く、合併症が起きた場合の対処法も標準化された安全性の高い手術です。
最も注意が必要な合併症は感染性眼内炎
白内障手術後の合併症の中で最も重篤なものが、感染性眼内炎です。手術の傷口から細菌が目の中に入り、眼内で増殖して視機能を失わせる合併症で、放置すれば失明に至ります。
日本眼科医会によれば、感染性眼内炎の発生頻度は2,000〜5,000人に1人程度です。
多くは手術後3〜7日頃に「急に見えにくくなる」「強い痛み」「ひどい充血」といった症状が出ます。これらの症状が出たときに早期に手術を受けた医療機関を受診すれば、抗菌薬の硝子体注射や硝子体手術で対応します。
眼内炎で失明を防ぐ最大のポイントは、退院後の異変を「気のせい」と片づけず、決められた受診日を待たずに連絡することです。
その他の合併症
眼内炎以外にも、白内障手術には後嚢破損・駆出性出血・術後黄斑浮腫・後発白内障などの合併症があります。
これらの多くは、視力低下や見え方の変化を起こすことはあっても、ただちに失明につながるものではなく、追加の処置や経過観察で対応できる範囲のものが大半です。
たとえば後発白内障は手術を受けた方の一定割合に起こりますが、外来でYAGレーザーを使って濁った膜を破ることで、視力を取り戻せます。手術当日に起きうる合併症についても、執刀医はその場で対処方法を決めて進めます。
「合併症」という言葉だけを見ると不安になりますが、一つ一つを「失明につながるか」という視点で整理すると、命綱として注意すべきは感染性眼内炎の早期発見である、と言えます。
手術で失明リスクを下げるためにできること
患者様側でできる準備は、「持病・常用薬・他の眼の病気」をすべて手術前に申告することです。
糖尿病や緑内障、強度近視、過去の眼外傷などは、手術の進め方や術後の経過に影響します。情報が揃っているほど、執刀医は適切な準備ができます。
術後については、抗菌点眼の指示通りの使用、術後ゴーグルの使用、決められた診察日を守ること、目をこすったりぶつけたりしないこと、入浴・洗顔の指示を守ることが、感染リスクを下げるうえで実用的な行動です。
失明を避けるための眼科受診のタイミング
白内障は「手遅れになる病気」ではない一方で、放置の期間が長くなるほど合併症リスクと手術難度が上がる病気です。受診のタイミングを判断する目安をお伝えします。
受診を急いだほうがよいサイン
以下のような症状があるときは、白内障の進行や別の眼疾患の可能性を含めて、早めに眼科を受診してください。
- 急に視力が落ちた、急に見えにくくなった
- 目の痛みや頭痛、吐き気が同時に出ている
- 電灯の周りに虹のような輪が見える
- 片目だけ極端に見え方が変わった
- 視野の一部が欠けている、暗く見える
これらは白内障単独ではなく、急性緑内障発作・網膜剥離・出血など、緊急性のある眼疾患のサインであることがあります。
「年だから仕方ない」「数日様子を見よう」とせず、当日〜翌日に受診するのが安全です。
急がなくてよいが「一度診てもらう」目安
緊急ではないものの、以下のような変化に気づいたら、近いうちに一度眼科で診てもらうことをおすすめします。
- 最近メガネが合わなくなった、何度作り直しても合わない
- 明るい場所でまぶしい、夜の運転で対向車のライトがまぶしい
- 文字がかすんで読みにくい、新聞や本が読みにくい
- 物が二重・三重にだぶって見える
これらは白内障の典型的な初期症状で、検査をすれば白内障があるかどうかは比較的すぐにわかります。
「まだ手術するほどではないですね」と言われた場合でも、今後の進行を予測したり、定期的に経過を見ていくきっかけになります。
白内障があると言われた後の経過観察
すでに白内障があると診断され、手術はまだという段階の方は、日常生活に支障が出始めたタイミングを医師と共有することが、失明予防の実用的な行動です。
具体的には、車の運転で標識が見にくい、仕事の細かい作業に支障が出てきた、テレビの字幕がぼやける、料理の包丁の刃先が見えにくい、といった「見えにくさが暮らしの中で起きている」状態が、手術を検討する目安になります。
白内障に関するよくある質問
白内障で完全に失明した人はいないのですか?
日本国内で、白内障単独で完全に視力を失う方が全くいないわけではありません。
長期にわたり医療機関を受診せず、過熟白内障の状態にまで進んでしまうと、水晶体融解性ぶどう膜炎や急性緑内障発作などを介して視力を失う可能性があります。ただし、視力低下の段階で眼科を受診できれば手術で視力を取り戻せる場合がほとんどです。
白内障の進行はどのくらいの速さですか?
白内障は通常ゆっくり年月をかけて進行します。
ただし進行のペースは個人差が大きく、糖尿病・ステロイドの使用・外傷・強度近視がある方や屋外で紫外線を浴びる時間が長い方は、進行が早まる場合があります。半年〜1年単位で見え方が変化していると感じる場合は、一度眼科で進み具合を確認してください。
片目だけ白内障の場合も手術が必要ですか?
両目の白内障の進み方は左右で異なることが多く、片目だけ手術になるケースは珍しくありません。
もう一方の目の見え方が保たれていても、片目の視力が極端に下がると左右の見え方の差で日常生活がつらくなることがあるため、進行している側だけ先に手術するという選択肢があります。進み方を経過観察しながら、もう一方の手術時期を相談していきます。
まとめ
「白内障で失明するか」という不安に対して、最もシンプルな対策は、見え方の変化を感じた時点で眼科を受診することです。視力検査・眼圧測定・眼底検査を組み合わせれば、白内障そのものの進み具合に加え、放置時に怖い緑内障や網膜の状態まで確認できます。
武田眼科では、白内障の経過観察から日帰り手術まで一貫して対応しています。失明原因として白内障より頻度が高い緑内障についても、レーザー治療(SLT)まで含めて当院でご相談いただけます。漠然と不安を抱え続けるよりも、現在地を知ることから始めてみてください。
この記事の監修者
武田眼科
院長 武田俊彦
地域の皆さんの少しでもお役に立てるよう努力します。
患者さまの目線で病気を見つめ、わかりやすい言葉でご説明することを大切にしています。
■ 経歴
- 平成14年4月:関西医科大学眼科 入局
- 平成15年5月:日本赤十字社和歌山医療センター眼科 勤務
- 平成17年10月:関西医科大学滝井病院眼科 勤務
- 平成18年4月:関西医科大学滝井病院救命救急センター 勤務
- 平成19年8月:医療法人慈眼会 武田眼科 院長就任
- 平成19年9月〜12月:天理よろづ相談所病院 非常勤医師
■ 資格・認定
- 眼科専門医
【白内障手術および多焦点眼内レンズに関する重要事項】
白内障手術自体は健康保険が適用されますが、多焦点眼内レンズを選択する場合の追加部分は自由診療または選定療養の対象となり、保険診療と自費が併用されます。
- 治療内容:濁った水晶体を超音波で取り除き、人工の眼内レンズを挿入する手術。単焦点眼内レンズは保険適用、多焦点眼内レンズは選定療養または自由診療
- 治療期間・回数:両眼で2回(片眼ずつ実施)。所要時間は片眼10〜20分程度(個人差あり)
- 費用の目安:単焦点眼内レンズによる手術は健康保険適用。多焦点眼内レンズを選択した場合は別途追加費用が発生します。詳しくはクリニックへお問い合わせください
- リスク・副作用:感染症、後発白内障、眼内炎、術後の見え方の違和感、ハロー・グレアなど

